納豆をかき混ぜるのは祖父の仕事だった。
夜七時のNHKのニュースを欠かさず観て、七時半に観終わるや床につく、赤いきつねを愛する寡黙な昭和の男である。
夏の朝。テレビに映る球児たち。
祖父は納豆をかき混ぜている。醤油を入れる。そしてまた、かき混ぜる。納得の表情だ。
よく泡立っている。白身も入れるのが祖父の流儀である。
絶妙な塩梅。祖父でなければできない仕事だ。
あの味に近づきたい。あの味を後世に伝える義務が僕にはあるはずだ。
でも、美味しいだろう?祖父譲りの納豆は。
納豆をかき混ぜていると、あの夏の風景と祖父の横顔を思い出す。
今では僕の仕事だ。